加齢による物忘れと認知症の違い
年齢を重ねると、記憶力は少しずつ低下し、物忘れが増えてきます。「物をどこに置いたか分からない」「人の名前がすぐに出てこない」といった物忘れは、健康な人にもみられる年齢相応の変化です。後から思い出したり、ヒントがあれば思い出せたりすることが多く、通常は日常生活に大きな支障を来しません。
一方、認知症では、出来事そのものを忘れてしまうことがあります。人から聞いたことを覚えておらず、「そんなことは聞いていない」と言って、家族とのトラブルになることもあります。
ただし、認知症の症状は物忘れだけではありません。判断力や理解力の低下、日時や場所が分からなくなる、言葉が出にくくなる、性格や行動が変化するなど、原因となる病気によってさまざまな症状が現れます。
認知症とは
認知症は一つの病名ではなく、さまざまな脳の病気によって、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断などの認知機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障を来している状態を指します。
一時的な意識障害である「せん妄」や、うつ病などでも認知症に似た症状が現れることがあるため、正確な診断が大切です。
認知症の原因
認知症の原因となる代表的な病気には、次のようなものがあります。
- アルツハイマー病
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭葉変性症
また、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、薬剤の影響などによって、認知症に似た症状が起こることもあります。
これらは原因を治療することで、症状が改善する場合があります。
そのため、「年齢のせい」と決めつけず、早めに医療機関へ相談することが重要です。
アルツハイマー病
アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβやタウ蛋白などが蓄積し、神経細胞が徐々に失われる病気です。
初期には、新しい出来事を覚えられない物忘れが目立ちます。進行すると、判断力、理解力、言語能力なども低下し、日常生活に支障を来すようになります。
診断には、本人や家族からの聞き取り、認知機能検査、血液検査、脳画像検査などを行います。脳画像では、
海馬を中心とした側頭葉内側部の萎縮がみられることがあります。
治療には、認知機能の低下を緩やかにする薬があります。また、一定の条件を満たす早期の患者さんには、
アミロイドβに作用する抗体薬が検討される場合があります。抗体薬の使用には専門的な検査と慎重な経過観察が必要です。
薬物療法だけでなく、運動、社会参加、生活習慣病の管理、生活環境の調整、家族や介護者への支援も大切です。
血管性認知症
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などによって脳の神経細胞が障害され、認知機能が低下する病気です。障害された脳の部位によって症状は異なり、
物忘れだけでなく、判断力や注意力の低下、意欲低下、感情の不安定さ、歩行障害、手足のまひなどがみられます。
脳卒中を繰り返すたびに段階的に悪化することがありますが、小さな脳血管障害が徐々に進行し、緩やかに認知機能が低下する場合もあります。
また、アルツハイマー病を合併していることも少なくありません。
診断には、本人や家族からの聞き取り、認知機能検査、MRIやCTなどの脳画像検査を行います。
治療では、高血圧、糖尿病、高LDLコレステロール血症、心房細動、喫煙などの危険因子を適切に管理し、新たな脳卒中を予防することが最も重要です。必要に応じて脳梗塞の再発予防薬を使用し、運動療法、リハビリテーション、生活環境の調整なども行います。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞にレビー小体と呼ばれる異常な構造物が蓄積して起こる認知症です。
主な特徴は、次のとおりです。
- 認知機能や注意力の状態が大きく変動する
- 実際には存在しない人や動物などが具体的に見える
- 動作が遅い、筋肉がこわばる、転びやすいなどのパーキンソン症状
- 眠っている間に大声を出したり、夢の内容に合わせて手足を動かしたりする
- 立ちくらみ、便秘、排尿障害などの自律神経症状
診断には、本人や家族からの聞き取り、認知機能検査、脳画像検査を行い、必要に応じてDATスキャンなどの検査を用います。
治療では、認知機能改善薬や抗パーキンソン病薬などを症状に応じて使用します。一部の抗精神病薬によって、
パーキンソン症状や意識状態が著しく悪化することがあるため、薬剤の選択には特に注意が必要です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞にレビー小体と呼ばれる異常な構造物が蓄積して起こる認知症です。
主な特徴は、次のとおりです。
- 認知機能や注意力の状態が大きく変動する
- 実際には存在しない人や動物などが具体的に見える
- 動作が遅い、筋肉がこわばる、転びやすいなどのパーキンソン症状
- 眠っている間に大声を出したり、夢の内容に合わせて手足を動かしたりする
- 立ちくらみ、便秘、排尿障害などの自律神経症状
診断には、本人や家族からの聞き取り、認知機能検査、脳画像検査を行い、必要に応じてDATスキャンなどの検査を用います。
治療では、認知機能改善薬や抗パーキンソン病薬などを症状に応じて使用します。一部の抗精神病薬によって、
パーキンソン症状や意識状態が著しく悪化することがあるため、薬剤の選択には特に注意が必要です。
前頭側頭葉変性症
前頭側頭葉変性症は、主に前頭葉や側頭葉の神経細胞が徐々に失われる病気です。アルツハイマー病と比べて若い年代で発症することが多く、
初期には物忘れよりも、性格、行動、言語の変化が目立ちます。
意欲の低下、社会的配慮の欠如、同じ行動の反復、食行動の変化、言葉の理解や発語の障害などがみられます。
現在のところ根本的な治療法はなく、症状に応じた薬物療法、生活環境の調整、問題となる行動への対応、家族や介護者への継続的な支援が治療の中心となります。
前頭側頭葉変性症の主な3つの病型
-
行動異常型前頭側頭型認知症
脱抑制、無関心、共感性の低下、常同行動、食行動の変化などが中心となります。 -
意味性認知症
言葉の意味や、物や人物に関する知識が徐々に失われます。 -
進行性非流暢性失語
発語が努力性で途切れがちになり、文法の障害などが現れます。
当院での対応
当院では、患者さんやご家族から「認知症ではないでしょうか」とご相談を受けた場合、症状や生活状況を詳しく伺い、必要な診察や検査を行います。
そのうえで、脳神経内科、認知症専門医療機関、画像検査が可能な病院などと連携し、認知症の診断、治療、生活支援を進めています。
急に物忘れがひどくなった場合、歩き方や性格が変化した場合、日常生活に支障が出ている場合には、早めにご相談ください。
認知症予防のためのアドバイス
認知症を完全に防ぐ方法はありませんが、生活習慣や健康状態を改善することで、発症を遅らせたり、リスクを下げたりできる可能性があります。
以下の順序は、研究上の厳密な効果順位ではなく、科学的根拠と健康全般への効果を考慮した実践上の目安です。
定期的に運動する
週150分程度の速歩などの有酸素運動に加え、週2回程度の筋力トレーニングを行いましょう。体力に合わせ、無理なく続けることが大切です。
体重管理
高血圧、糖尿病、高LDLコレステロール血症、肥満を放置せず、特に中年期から適切に管理しましょう。
禁煙する
喫煙は認知症だけでなく、脳卒中、心筋梗塞、がんなどの危険性も高めます。
難聴や視力低下を放置しない
難聴があれば、必要に応じて補聴器を使用します。白内障など治療可能な視力低下も適切に治療しましょう。
社会活動に参加する
家族や友人との交流、仕事、地域活動、趣味の集まりなどを通じて、社会的な孤立を避けましょう。
知的活動を続ける
読書、語学、楽器、囲碁・将棋、学習などを続けましょう。単純な脳トレだけでなく、他者との交流や運動を伴う活動が理想的です。
バランスのよい食生活を心がける
地中海食を参考に、野菜、豆類、全粒穀物、魚、ナッツ類などを取り入れ、加工肉、精製された糖質、過剰な塩分を控えましょう。特定のサプリメントによる認知症予防効果は確立していません。
過量飲酒を避ける
飲酒量を控え、認知症予防を目的に飲酒を始めることは避けましょう。
睡眠や心の健康を整える
慢性的な不眠、睡眠時無呼吸症候群、うつ病などが疑われる場合には、適切な診断と治療を受けましょう。
認知症予防では、どれか一つだけを行うのではなく、
運動、食事、知的・社会的活動、生活習慣病の管理を組み合わせ、無理なく継続することが大切です。
